オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
黒地に金文字、そして、赤い暖簾。
京夜様と生活するようになって、久しく食べてないアレだ。
「京夜様っ、ホントにここでいいんですか?お店なら、他にもありますよ?」
暖簾をくぐろうとする彼の腕を掴んで引き留めると、
彼は不機嫌そうに振り返った。
「何気に失礼な発言だな」
「え?」
引き留めたことに機嫌を損ねたのかと思えば、
私が発した言葉にイラっと来たようだ。
自分が口走った言葉を思い返すと、………あっ。
「すみません、そうですよね……」
店先で話すような内容じゃないわ。
本当に私って無神経だ。
別にこのお店の味を疑っている訳じゃない。
このマンションだって、御影グループ所有のものなんだし。
そのタワーマンションに店舗を構えるんだから、それ相応のレベルだってことも。
ただ、まさか彼がこのお店をチョイスするとは思ってもみなかったから。
彼から手を離し、小さく頷く。
「入りましょう!」
「当然だ」
「…………」
さっきまでご機嫌だったのに、一瞬で不機嫌になれる人。
扱いはかなり難しいけど、そんな彼がご機嫌になる術を私は何となく知っている。
だから………。
暖簾を手で捲り上げ、もう片方の手でドアを開けて下さり、
私をエスコートする彼に満面の笑みを。
「ありがとうございます」
ほら、やっぱり。
一瞬目を見開いた彼が、すぐさま口角をキュッと上げ、不敵に微笑んだ。
私が楽しんだり喜んだりしたら、彼は不機嫌になったりしない。
よほどの理由がない限り。
「いらっしゃませ~」
夕食には少し早い時間帯という事もあり、人の視線も気にすることなくのんびりと。
そして私は、贅沢な海鮮味噌ラーメンを戴いた。
京夜様に至っては、今日のラーメンが、28年の人生で3度目だと……。
マンション内に店舗があることも勿論だけど、
京夜様が正真正銘の御曹司だと改めて実感した、そんな日だった。