オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
玄関のドアを開けると、希和が優しい笑みで出迎えてくれる。
それがこの上なく幸せで。
当たり前だと思っていたことも、失いかけて初めて気づかされる。
何度同じ過ちを繰り返さなければ分からないのか。
本当に自分に対して反吐が出る。
「何か、あったのですか?」
「ん?」
俺は無意識に溜息を吐いていたらしい。
彼女が俺の顔を覗き込んでいる。
「いや、何もない」
「ですが………」
「仕事人間の俺が、仕事が嫌になるくらい家に帰りたいと思うようになるなんてなって………」
「っ………」
俺の言葉に頬を赤らめた希和。
嬉しそうに視線を逸らした。
そんな彼女を両手に閉じ込め、意地悪な質問をする。
「こういう時に言う言葉があるだろ」
「……………はい?」
俺の意図が分からない彼女はゆっくりと顔を上げ、不思議そうに俺を見つめた。
「それは、わざとか?」
「え?…………え、えっと、何のことでしょうか?」
本当に分からないのか、知らないのか。
希和は豆鉄砲を喰らったかのような真ん丸な目をした。
そんな彼女の耳元に口元を寄せて。
「御飯にします?お風呂にします?それとも…………」
「なっぁぁぁぁぁぁあああっ!!!」
俺の予想通り、希和は激しく動揺し、一瞬で紅潮した。
そんな希和の顔を覗き込み、しつこく攻める。
「ん?…………で?」
「もう~~~ぉっ!揶揄いが過ぎますよ、京夜様っ」
「フフッ、そうか?俺は希和ッ」
俺の言葉を遮るように口元を手で覆われた。
「いいですか?京夜様」
「ん?」
「我が家はいつも通りです。シャワーの後にゆ・う・しょ・く、ですから!いいですね?!」
久々に希和らしい表情を浮かべたことに安堵した俺は、
彼女の手を掴み、俺の口元から離すと同時にそっと手の甲に口づけた。
「承知しました、奥様」
「なっ……」
普段はおチャラけない俺だが、
こんな風に他愛ない会話が俺らには必要なんだと痛感している。
これからは、こんな日常を積み重ねていけたら………。
驚く彼女の頭を優しくポンポンと撫で、俺は自室へと向かった。