壁に、おひさま
「えーっと……なに、かな」

 私は傍らに置かれた手を避けようと、じわじわと体を横にずらしながら尋ねた。
 いや、怖いわけじゃないよ、怖いわけじゃないんだけど、いやまぁなんとなく。

 真一くんはタンッと小さな音をたて、反対の手も壁についた。

 ちょっとちょっとちょっと! 逃げ場がなくなっちゃうじゃないのっ。
 私は、彼が両腕で創った小さなスペースにすっぽりと囲われてしまった。
 彼の薄い唇が、たどたどしく言葉を紡ぐ。

「……今」
「いま?」
「今、ミサイルが落ちたらいいのに」
「え」
「そうしたら、俺がイズミさんを命がけで守るところを見てもらえるのに」
「誰に」
「イズミさんに」

 真一くんがなにを言いたいのか、よく分からない。

 真一くんは私より六歳年下で、小学生の頃から知ってる。
 やんちゃで、生意気で、でも甘えん坊で――そんな彼が、どうして私を守るなんて言ってるんだろうか。

「今はこの腕の間くらいの、小さな範囲でしかイズミさんを守ることができない。だからミサイルとかトラックとか暴れ馬とか、そんなのがいきなり来たらいいのに」
「暴れ馬って」
「牛でも巨人でもいいけど。そしたらイズミさんのこと、ぎゅっと抱きしめて守るのに」

 真一くんの腕が、ほんの少しだけ動く。
 ……抱きしめられるかと思って身構えたけど、そんなことはなかった。ただ、震えただけだった。

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