恋唄

黒髪のあの子



家に帰ってから鞄の中を開けたら見慣れない財布が入っていた

「なんだこれ」

手にとってみると女物の財布だった

「あの子のかな…」

不謹慎かなと思いながらも財布を開いてみる
お金は3000円と少しくらいしか入っていなかった
レシートのほとんどはバイト先のカフェで全部コーヒーとしか書いてなかった
学生証らしき物があったので見てみた

「高橋 唯…。」


あの子は高橋唯って言うんだと思いながら裏を見てみると住所が書いてあった

「どうせ明日休みだし…バイト先に近いし…行くか。」


なぜか少し嬉しく感じている自分がいた












次の日






お昼くらいに俺は学生証の裏に書いてあった住所のアパートに来ている。
古くもなく新しくもないアパートだった


ピンポーン


いるかな…。やべ。俺緊張してる。
会ったらなに話せば。

………バタバタバタ

「はーい」

ガチャ

………



「だれ?」

黒髪のあの子は黒いパーカーに灰色のスウェットを履いていて眼鏡をかけていた
いかにも部屋着という格好だった

「あの…これ。俺の鞄の中に入ってた…から返しにきたんだけど」
「財布?」
「これ」
「あ、私のだ。なんで…?」
「あ、俺フレアって言うカフェでバイトしてるんだけど、よく来るでしょ?コーヒーを飲みに。それで昨日帰り道で君とぶつかって…あの…その…」
やべーっ言葉が出てこない。
「…とりあえず入りなよ」
「え?」
「私寒がりなのあんま外にいたくない」
「あ…はい。」




女の子らしいとはお世辞でも言えないくらい殺風景の部屋だった
「コーヒーでいい?」
「あ、うん」


部屋のなかにはたくさんのCDが置いてあり、隅にはギターが立てかけてあった

「はい、コーヒー」
「ありがと。音楽、好きなの?」
「うん。まぁ…あ、名前…」
「俺?俺は如月陸だよ花咲高校の2年」
「…高橋唯。ユイでいい。徳春高校の1年」
「え。年下?」
「そーみたいだね」


ユイが年下という事に驚いていたらふと目に入ったCDがあった


「これ、奏のまだ発売されてない新曲じゃん」
「聴く?」

そう言ってユイはコンボにCDをセットした




「あなた奏が好きなの?」
「俺?まぁ俺より友達かな。まぁ俺も好きだよ」
「ふーん」


ユイはギター見つめていた
その横顔に俺は見とれてしまっていた



「バイト、そろそろじゃないの?」
「え?」
「いつも3時からでしょ?」


時計を見れば2時45分だった


「やっべ!コーヒーありがと!もう行くわ!」
「いーえ」

まだ…行きたくないな


気づけばコップを片しているユイ腕を掴んでいた


「なに?」
「あ…また話していい?話したい」

こんな恥ずかしい言葉を言うつもりなんかなかった
きっと俺の顔は真っ赤なんだろう


「ぷっ…」


ユイが笑った

「いーよ」


その笑顔がすごくすごくかわいかった








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