俺様魔王の甘い口づけ


現れた人。
いや、それは本当に人なのか。

スラッとした長身で、黒を基調とした白い襟のないシャツ、黒いパンツに足元はブーツ。
ジャケットを羽織り、その身体を覆うようなマント。

真っ黒な黒髪の、透き通るような真っ白な肌。
二重の瞳は鋭い眼光を放っていた。
鼻はすっと通っていて、こんな状況でなければ、その整った顔に胸をときめかせていたかもしれない。


でも、あの女の人の恐怖の対象があの人なのが、私の気持ちをひどく冷静にさせる。



「人間よ、跪くがよい」


蔑むような発言はともかくその声は、とても甘く痺れるような落ち着いた声。


ゴクリ、と唾を飲む。
これから起こる何かに恐怖しか感じない。


「俺様の血となり肉となれることを、泣いて喜んでいるのか?」


声を殺し泣いている女の人に吐き捨てるように落とされた言葉。
そんなことを喜ぶ人がどこにいるんだ。



「その怯えた顔、もっと見せろ」


喉の奥を鳴らしながら女の人に近づき、愉しそうな表情を見せる。
何がそんなに楽しいのか。
女の人はあんなに怯えきっているのに。


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