めぐりあい(仮)
だってそこに。
「ごめんな、美緒」
女の子を美緒と呼ぶ、
パパの顔の悠太郎がいたから。
「次いつパパに会えるの?」
「そうだな…」
「こら、美緒。パパを困らせちゃだめでしょ?」
きっと一緒に立ってる女の人が、
悠太郎の奥さんで女の子のママ。
今まで見たことなかったけど、
あんな綺麗な人だと思わなかった。
すごく綺麗な奥さんに、
まだ小さい女の子。
紛れもなく、悠太郎の家族だった。
「家族、か」
奥さんの車が出たのを確認して、
悠太郎の家に向かう。
エレベーターが上がるにつれて、
だんだん心が重くなっていく。
家の前でインターホンを鳴らし、
待ってたと嬉しそうに悠太郎が
ドアを開けてくれた。
何だか違う。
いつもの空気と違う。
奥さんがいた。
子どもがいた。
それを物語っているようで。
「何か飲む?」
外暑かったでしょ?
あたしを見て、嬉しそうに
聞いて来る悠太郎。
ねえ、悠太郎。
どうしてそんな普通に
いられるの?
「さっきまで誰か来てた?」
悠太郎の質問を無視して、
そう尋ねてみた。
すると悠太郎は。
「あー…うん。知り合いがね」
と、言った。
要するに彼は。
「何で、嘘…付くの?」
あたしに嘘を付いた。
目の前に出された、
氷の入ったお茶を見つめて。
目の前がぼやけた。
自然と涙がこぼれていた。
「妃名子っ…」
「もういい。帰る」
あたしの手を掴んだ悠太郎の手を、
必死にほどいて部屋を出た。
その衝撃に、悠太郎のために
焼いたクッキーが床に落ちた。
後ろで名前を呼んでいたけど、
もうそんなこと気にしていられない。
それよりも、嘘を付かれたことが、
あたしには何よりもショックなことだった。
奥さんが来てたなら、
そう言えばよかったんだ。
子どもに会ってたなら、
会ってたって言えばよかったのに。
家族を知り合いと言ったことも、
あたしに嘘を付いたことも。
全部全部許せなかった。