めぐりあい(仮)
「俺の所に来たんだ、あいつ」
千秋さんはふっと笑って。
「何か飲ませてやってくれ、って。これ」
千秋さんの手には、
しわくちゃの1万円札があった。
「蓮哉がいきなり渡してくるから何かと思ったら」
「1万円札…」
千秋さんの言う蓮哉を想像したら、
不思議と笑えてきた。
「というわけで、俺何か飲みたいです」
「あ、はい」
「蓮哉の頼みだから。何飲む?」
「えっと…、苦くないので」
了解、と。
千秋さんは待ってて、と言い残し、
席を離れて行った。
ばかだな、蓮哉。
こんなあたしのために、
1万円札くしゃくしゃに
しちゃって。
「アイスココアでよかったかな」
「はい、好きです、ココア」
紙で出来たコースターを引き、
その上にグラスを乗せてくれる。
美味しそうなココアを
一口、口に含み。
思わず美味しいと声を漏らした。
「何かあったの?」
千秋さんは、
どこまで知ってるんだろう。
そう思うとへたに答えられなくて。
「俺に無理に言わなくてもいいから」
千秋さんは落ち着いてて、
大人な人だから。
だからあたしの考えを、
先まで読んでくれてる気がした。
「でも蓮哉には話してやって」
「…はい」
「若干強引な奴だけど、ばかだし」
千秋さん。
若干、じゃなくて、
かなりです。
「最近鳴海とどうなんですか?」
そっちの話題に持って行くと。
千秋さんは綺麗な顔で。
「鳴海ちゃん素直でいい子だよね」
そう言って微笑んだ。
「一緒にいると、俺が元気にさせられるよ」
何だかあたしが褒められているみたいで、
何だかすごく嬉しかった。
「今度俺の相談乗ってよ、妃名子ちゃん」
「相談?」
「恋愛相談。どうしたら俺の物になるか」
名前は出さなかったものの。
その相手が鳴海だと言っている
ようなもので。
自分のことのようにはしゃいで
しまった。
「是非!」
「いい所で現れた」
その言葉と同時に、
駆けてくる足音が聞こえて来た。