めぐりあい(仮)





「ジャスト30分」




千秋さんは、お釣り返しといて


と言い残し、席を立った。





「待たせた、妃名」





「蓮哉、これお釣りだって」





蓮哉はお金を受け取ると、


荒い息遣いのまま、


財布にしまった。





「走って来たの?」





「千秋の休憩時間も30分しかないから」





あ、そうだったんだ。


千秋さん、自分の休憩時間、


あたしのせいでなくなっちゃったのか。


悪いことしちゃったな。





「まだ飯には早いけど、とりあえず出るか」





「うん」





蓮哉はあたしの隣を歩き、


ココアくさいと言いやがった。


この意地悪な笑みが、


優しさなのだと気付くのに、


少し時間がかかっちゃったよ。






「本当にここでいいのか、お前」





「いいの。こういう所で」





がやがや周りがうるさい。


いつも聞き慣れたフレーズが


心に染みる。






「あれっ、妃名子さんじゃないっすか」





「お疲れ様」





あたしが行きたい場所に指定したのは、


あたしが働いている居酒屋さん。


来慣れているこの場所を、


蓮哉と共有したかった。


だけど予想外に、


バイトの子たちがあたしを


見つけては食いついてくる。


おかしいな、そんなはずじゃ


なかったんだけど。






「なんだ、妃名。男連れて、バイト先荒らしに来たか?」





「はいはい。店長だけは来ないで」





ははは、と笑いながら蓮哉を見て。


ん?という顔をする。






「牧瀬?」





店長の口からそんな言葉が出て、


蓮哉も店長を見つめる。


そして嬉しそうな顔をして。





「西川先輩!」





店長の苗字である、


西川に先輩を付けて呼ぶ蓮哉。


もしかして。





「え、知り合いなの?」





店長にそう尋ねると。





「俺の大学の時の後輩」





「へ、へえ…」





何、その関係。


偶然過ぎて声が出ない。


そんなことも、あるもんなんだね。






「ま、ゆっくりしてけ」





「了解っす」






思ってるよりも仲が良いみたいで、


あたしそっちのけで2人の会話に


花を咲かせていた。







「いやー、びっくり」





「あたしのが、びっくりだよ」





注文していたビールと烏龍茶が運ばれ、


一応形だけ乾杯する。






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