めぐりあい(仮)
「何かあったんだろ、今日」
料理も運ばれ、
ちびちび口にしていると。
ゆっくり静かに、
優しく聞いて来た。
「話してみ」
「今日ね」
ふと頭に、
千秋さんの言葉が過ぎる。
"でも蓮哉には話してやって"
千秋さん、あたし。
今から蓮哉に話すよ。
「今日悠太郎に呼ばれて家に行ったの」
蓮哉は何も言わず、
うんと頷いてビールを口にする。
「ちょっと約束の時間とは早く行きすぎちゃったんだけど」
話しながら、
昼間のことを思い出す。
「たまたま奥さんと子どもと一緒にいる所見ちゃって」
「木嶋さんが?」
「うん」
ビールおかわりする?
と尋ねると、素直に頷かれ、
近くを通ったバイトの子に
もう1杯と注文。
「それで奥さんたちが帰って、家の中入って。悠太郎に、誰か来てた?って聞いたの」
運ばれてきたビールを
蓮哉の前に置き、
あたしはから揚げを口に頬張る。
「そしたら、悠太郎、知り合いが来たって言ったの」
「は?知り合い?」
「うん。嘘付かれちゃった」
蓮哉があたしを見るもんだから、
笑ってみせる。
ごめんね、こんな話でって。
すると蓮哉は。
「お前ばかじゃねーの」
そう言いながら、
両手であたしの頬を包んだ。
「笑うな。辛いんなら笑うな」
口に入れていたから揚げが
出そうになる。
頬に当たる大きな手が、
本当に温かい。
「辛くな…」
「お前も俺に嘘付くのか?」
蓮哉はまっすぐあたしを見て、
どうなんだよと問い直した。
逃げられないその視線に、
思わず素直になる。
「辛いよ、蓮…」
「最初からそう言えよ」
手を離した蓮哉は携帯を取り出す。
そして。
「俺が話つける」
そう言って携帯を
触り続ける。
「待って」
「黙ってろ」
「誰に電話するの?ね、待ってよ」
あたしは思い切り手を伸ばし、
蓮哉の携帯を奪った。