めぐりあい(仮)
携帯のディスプレイには、
木嶋悠太郎の名前。
「悠太郎に電話するつもりだったの?」
「木嶋さんが卑怯だろ」
卑怯?
悠太郎が?
「お前も嫁も、大事にしてるつもりなのかもしれねーけど。結局お前が悲しんでる。それが現状だろうが」
「蓮哉、やめて」
「ここままじゃお前が…」
ごめん、蓮哉。
卑怯なのはあたしなの。
「あたしはどうでもいいの」
こうやって人を頼りながら、
悠太郎の温もりをまた求めるの。
行きつく果ては、
いつも悠太郎なの。
愛してるが故の、涙なの。
「妃名子、木嶋さんはお前を大事にしてる」
こんな時の蓮哉の声は、
優しすぎて辛い。
「でもそれだけじゃ、お前が幸せになれない」
「蓮哉…」
あたしの幸せを考えてくれている。
それだけで、本当に充分すぎる
くらい嬉しい。
「どうすることがいいのか、1回自分で考えてみろ」
「…うん」
焼酎ロックで。
通り過ぎるバイトの子に
淡々とそう言うと、
まだジョッキにたくさん
あったビールを、
蓮哉は一気飲みした。
「海、朝から行くから」
「鳴海も行きたいって」
「丁度よかった。誘っとけって言おうと思ってた所」
蓮哉は少しイライラしてるのか、
お酒を飲むペースが早い。
「ね、蓮哉。飲むペース早いって」
「ほっとけ」
お酒に強いのは分かるんだけど、
いくらなんでもそんなに
飲んだら酔っちゃうでしょ。
「ねー、蓮。もうだめだよ」
「妃名が悪い」
「は、何であたしなの」
完全に何を言ってるのか、
分からなくなってきたので。
「ごめん、ここ片付けて」
バイトの子にお願いし、
お会計をすることに。
「蓮哉、帰るよ?」
そう言うと、財布を渡してきた。
いらない、と言っても、
強引に掴ませるあたり、
意識はちゃんとあるようで。
「じゃあ、お言葉に甘えます」
蓮哉を席に残し、
1人レジに向かう。
「お会計お願いします」
「なんだ、もう帰るのか」
「蓮哉潰れそうだから」
レジにいる店長にそう言って、
蓮哉の財布からお金を出す。