いいお嫁さん、やめてもいい?

「そろそろ迎え、行って来るな」


空港までお義父さんを迎えにいく約束をしていて、もうその時間が迫っていた。それでも今この瞬間がどんなに貴重か、先に気付けなかったことが歯痒くて法資に手を伸ばしていた。


「泰菜?どうした?」
「……法資。今だけ。3分だけ、『いいお嫁さん』やめてもいい?」


一瞬でいい。


おもてなしの支度を放り出して、眠る子も顧みないで。いい娘もいいお母さんもお休みして、法資の奥さんにだけなりたい。法資のためだけのわたしになりたい。

そういう思いは口にしなくても通じるものなのか、歩み寄ってきた法資はわたしを見つめた後、力いっぱいわたしの体を抱き締めてきた。


母であるまえに、嫁であるまえに、この人の奥さんなんだ。


そう思い知らされる抱擁の心地よさになぜか涙腺が刺激されてしまう。どうやら自覚してなかっただけで、すれちがい生活でダメージを食っていたのは、法資だけじゃなかったみたいだ。大事なものだと訴えようにわたしを包み込んでくる、その腕が与えてくれる安堵感にちょっぴり涙ぐみそうになる。

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