神さまのせいでタイムスリップ先が幕末の京になりました



では、詩織はどうしたかと言いますと...



「ンーッ!ンンーッ!!!」



何者かに茂みの中に連れさられ 背後から口を塞がれていましたとさ。




手にしている傘を壊さないように急いで閉じて、暴れる暴れる。



その度に詩織の口元を押さえる手、体に巻き付いた腕の力が強くなる。



ハァ...と詩織の頭上からため息が降ってきた。


「俺だよ、落ち着け」


耳元にささやかれる低音ボイス。







いや、誰!?



知らない人に拘束されていることに 更にパニックになりかける。


が、暴れることはやめた。


向こうに隙が出来たら 逃げよう。


それまでは大人しくしている。


今は藤堂から見つからないことが先。



詩織の中の優先順位はパパッと決まった。



大人しくなった詩織に安心したのか 詩織を締めつけていた力が弱くなった。


それでもまだ逃げることはできない。




藤堂が何故か こちら側に音の原因を確認しに来ているからだ。


詩織たちが隠れている茂みの近くまできた。


息を殺す詩織。


『藤堂さんに見つかりませんように』と、それだけを強く願う。



その願いが天に届いたのか


「何も...ないな」


藤堂はちょいと見ただけで そう呟き、不思議そうに首を傾げながら屋敷へ戻っていった。





藤堂の気配が消えてから、安心して詩織は ふぅ...と息を吐、けなかった。


そういえば口を抑えられていたのだ。




藤堂がいない今こそ逃げるとき。



全力でエルボー!エルボー!!エルボー!!!



だがしかし、ダメージを受けたのは詩織の腕。


硬い板にぶつけた時のように腕が痛む。




それでもこの感覚は覚えがある。


詩織は安心して静かになった。


自分が正しければ、この腹の硬さはきっと沖田さんのはず。


スゥーッと力が抜けていった。



相手もそれで安心したのか、詩織から手を離した。



詩織はそこから傘を開いて、くるりと半回転。


「ありがとうございま...」


藤堂から隠していただいたお礼を言おうと思ったが、詩織の瞳にうつった者は沖田、ではなく原田。



約一週間振りの再会である。



困ったように詩織は微笑む。


「あぁ原田さん、だったんですね」


どう反応すれば分からないようだ。


それもそのはずで、原田と別れたのは あの抱きしめられて起き、そして土方の元へ沖田に連れて行かれたのを見たときが最後。


あまり良い印象はない。



それでも 詩織を藤堂から隠した原田にはお礼を言わなければならない。



「お久しぶりです」


「あぁ、そうだな」


にへらと目の前で笑う原田に 胸がキュウッと締め付けられる。


そのコトには気づかないふり。


雨に濡れ続ける原田を背伸びをして傘の中に入れ、詩織は続ける。


「それと藤堂さんから隠していただき ありがとうございます」


「まぁそれくらい気にすんなって」


また原田に微笑まれ、胸が痛くなった。


原田から目をそらし、右手で顔をおおう。それでもドキドキが止まらない。なぜ?


しかしチラリと原田の顔を指の隙間から覗き見ると 現代でも通じるほど まぁ見事に顔立ちが整っており 確かにかっこいい。



だがしかし。それだけのはず。


心を無にする。


「あの...」


そう口を開けば、ん?と小首を傾げられた。


それだけでドキリと胸が鳴る。


イケメンは本当に心臓に悪い。


ほんの少しだけ勇気を振り絞り声を出す。


「屋敷の中に入りませんか?」


「そうだな」


二人は前川邸の方へと歩き出した。




ちなみにこの時点で二人の脳裏から藤堂のことなど綺麗さっぱり消えていた。


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