神さまのせいでタイムスリップ先が幕末の京になりました


そしてまぁ何をしに行ったかといえば...


「にーいーみーさんっ!」


どこかの誰かさんのように勢いよくスパーンッと部屋の障子を開け、文机に向かっている新見の背中に突撃!




新見は怒るかと思われたが 慣れた様子で詩織の相手をする。


片手でいとも簡単に詩織を自分から引き剥がした。



「また貴女ですか...
今日は何があったんですか?」


ゲッと 詩織を見て 嫌そうな顔をしながらだったが。



それでもめげずに詩織はニコニコとその場でクルクル回りながら答える。



「実は皆さんに好かれすぎて困って ─── 」


「さようなら」


新見は詩織の答えを全部聞く前に、部屋から追い出した。


「ちょっと待ってくださ ─── 」


「ソレ、昨日も一昨日もこの一週間毎日聞いてます」


「そんなはずは ─── 」


「さようなら」



問答無用で障子をピシャリと閉められた。


ポカーンと部屋の前で立ちすくむ詩織。





昨日まではこんなことなかった。


新見と出会った最初の頃は 芹沢同様 未来での悪評通り取っつきにくいと思っていた。


だが 新見は面倒くさがりながらも話しだけは聞いてくれた。


何が変わった?




そこまで考えながらも『もう新見の我慢の限界がきた』


そうは考えつかない詩織である。




とりあえず新見の部屋で時間を潰すことは諦める。




んー、と この雨の中 何ができるか考えた。



自分の部屋に戻ることが一番良いと思うが、残念なことにそれはできない。


まだあの四人がいるはず。


それでは新見の所まで逃げてきた意味がない。




こうなれば仕方がない。


前川邸に遊びに行こう。




どうして自分が八木邸にお世話になったのか忘れている詩織であった。






すぐに傘を借り、前川邸に歩いて行く。




土方さんがいたら からかって遊べばいいかな?


なんてそれはそれは人として最低なことを考えながら 詩織はニヤけていた。



この一週間 前川邸に一度も行っていないからこそ久しぶりに会えることにワクワクしていた。





藤堂さんに見つからなきゃ大丈夫だよね?


そんな甘い考えでいたのだ。











神はそんな詩織を見放す。











前川邸の門から入ってすぐ。


偵察から帰ってきたらしい 藤堂が雨の中 一人、立っていた。





息を呑む。


一番見つかってはいけない人物に 見つかりかけている。



ピンチだピンチ。


隠れようにも場所がない。



キョロキョロと周りを見渡す。


よし、八木邸に戻ろう。




この結論が出るまで0.5秒。



ソロソロと退散する。






が、雨で濡れていたせいか ものの見事に ズコーンッと大きな音を立てて転んでしまった。



不幸中の幸いはあまりにも突然のことで叫ぶ暇もなかったこと。



それでもその滑った音に反応して藤堂が振り返った。










しかし───





「あぁ?何だったんだ、今の音...?」




藤堂が見た先には 何一つ 詩織の痕跡はなかった。



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