口の悪い、彼は。
……遡ること、2日前の夜のこと。
突然、比奈子さんから電話が掛かってきた。
比奈子さんとは連絡先は交換していたものの実際に連絡を取り合ったことはなく、一瞬何が起こったのかわからなかった。
戸惑いながらも電話に出て比奈子さんに提案されたことは、「近いうちに会えないかな?」という内容だった。
ほんの少し……ううん、かなり迷ってしまったことは言うまでもない。
だって、比奈子さんは千尋の元カノで、もしかしたらふたりはよりを戻すかもしれないのだから。
いくら比奈子さんが素敵な人だからと言っても、今は会いたくないという気持ちがないとは言えなかった。
でも、真剣な声色で「話したいことがあるの」と言われてしまったら、断ることも出来ず、私は会うことを承諾したんだ。
比奈子さんは一体何で私を誘ったのだろう?と疑問に思いながらも、待ち合わせをした場所から、比奈子さんとふたり、個室のあるオシャレな和食屋さんに来ていた。
すでに私たちの目の前には頼んだ料理が並んでいて、お互いに口に運ぶ。
「この煮物、大好きなの」
「わ。柚子の香りがアクセントになってて、すごくおいしいですね!いくらでも入っちゃいそう~」
「でしょ?小春ちゃんにそう言ってもらえて良かった」
食べ物が目の前にあれば心踊るのが女というもので。
私は箸を伸ばし、口に運ぶことに夢中になる。
むぐむぐと咀嚼しながら、無意識に声が出る。
「おいしい~!」
「ふふっ。ね、小春ちゃん、お話してもいい?」
「あっ、はい。食べるのに夢中になっちゃって……すみません」
かしこまって言われたこともあって、私は食べる手を止めて箸を小皿の上にかちゃっと置き、真っ直ぐ比奈子さんのことを見た。
すると、比奈子さんが少し慌てたように箸を持っていない左手を左右に振った。