口の悪い、彼は。
 

「こんにちは~!ようこそ、いらっしゃい!外は暑いでしょ?あがって、あがって!」

「おじゃまします」

「おじゃましまぁす」

「かちょー、ちかおねえちゃん、はるひ、かずき、こんにちは!」


千尋に「人に会ったら、ちゃんと挨拶をしろ」と教えられている明良は、玄関の中に入ってきたお姉ちゃんたちに笑顔を向けてしっかりと挨拶をする。


「おーっ、こんにちは!明良、またデカくなったな!」

「うん!かちょーもえらくなったね!はるひっ、あっちであそぼ!」

「うん、いいよ~」


明良は喜多村さんの言葉に答えた後、すぐに、晴日ちゃんと早く遊びたいと言わんばかりに晴日ちゃんの目の前に手を差し出した。

すると、晴日ちゃんは何のためらいもなく、明良のまだ小さな手をきゅっと握った。

子どもの4歳差はまだまだ大きくて、晴日ちゃんがお姉ちゃん、明良が弟にしか見えないけど、年齢を重ねていけばそんなのは関係なくなる。

何年も先のことだけど、それを見るのが今からすごく楽しみだ。

ふたりは仲良く手を繋いでいつものように遊び部屋に消えていった。


「うん!元気で何より!晴日、何日も前から明良に会えるの楽しみにしてたからな~」


今年度から営業部一課の課長のポストについた喜多村さんは、明良に“かちょー”と言われたことが嬉しかったようで、にやつき顔のままそう言う。


「明良もですよ~。さっきも、はしゃいでぴょんぴょん飛び跳ねてちゃって!」

「仲がいいのはいいことだけど、晴日を明良に取られると思うと正直複雑~」

「あははっ!私は大歓迎ですけどね!」

「娘の親は寂しいよなぁ~。高橋、部長は?」

「千尋ならリビングにいますよー」

「おー。話してこよっと」


最初のうちはやっぱり千尋に対して戸惑っている様子を見せていた喜多村さんだけど、今ではすっかり千尋と仲良しだ。

そして千尋も、仕事上で信頼しているのはもちろん、プライベートでも喜多村さんには気を許しているようだ。

ふたりのおしゃべりの内容をそれとなく聞いても細かく教えてくれなかったり軽くあしらわれてしまったりするんだけど、そこもお互いの信頼に繋がっているのかもしれない。

 
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