口の悪い、彼は。
 

「そこ、気を付けろよ」

「へ?」

「ソレ。」

「……ぎゃっ!?」


私は部長の指差した先の黒い物体の存在に、さっと身を引く。

な、なんでこやつがこんなところにっ!

っていうか!


「何で放置なんですか!?気付いてるなら片付けてくださいよ~!」

「手が離せねぇんだよ」

「え、だって今日は余裕ありそうな」

「あぁ?俺が暇そうに見えるとでも言いたいのか?」

「ひっ!」


ぎろりと睨まれて、私はビクッと肩を震わせてしまう。

部長は甘いフェイスを持つにも関わらずその目線が突然鋭く光ることがあって、いくら部長に恋愛感情を持っているとは言っても、怖いものは怖いのだ。


「そ、そんなこと言ってませんけど!でも!」


黒い物体……つまり、ゴキブリをそこに置いて仕事を続けるなんて、考えられないんですけど!

……って。ま、まさか……!


「部長ってそういう趣味が……!?」


ゴキブリをそばに置いておくと仕事がはかどるなんていう悪趣味があるの!?

そんな趣味を持った上司なんて、嫌!

恋人なんかになれるわけはないとわかっているけど、奇跡が起こってそうなれるとしても、そんな恋人も嫌!

 
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