口の悪い、彼は。
 

今日は狙いがうまく定まらず、結局4回目の格闘でようやくヤツを仕留めることができた。

隠れるところがあまりなかったのか、私の剣幕にビビっていたのか、ヤツは5分に一度くらいのスパンでひょこひょこと姿を現してくれたから、決着もそこそこ早くついたと思う。


「よしっ。完了~」


ぱんぱん!と両手を叩く。

しっかり後始末まで終え、私は誰もいなくなってしんと静まり返っているオフィスを見渡した。

別に誉めてほしいわけではないけど……こんなに頑張ったのにヤツを退治したことを喜んでくれる人がいないのって、すごく空しい。

ヤツがいたことを唯一知っている部長はというと、あれから20分経っても戻ってきていなかった。

うるさいと言い捨てて出ていったから、他の課に行っているか、喫煙室辺りに場所を変えて電話でもしているのだろう。


「はぁ。手、洗ってきてから仕事に戻ろ」


オフィス内に私の呟きをぽつりと落として、私はオフィスを出た。

 
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