口の悪い、彼は。
 

「好きな人って何の話だよ」

「!!あのっ、えっと~……そ、そうです!会社での部長ってツンツンしてるから、好きな人に対してもそうなのかなって!恋愛事情とか聞いてみたいなーなんて、ふと気になっただけで!深い意味はないんです!あははっ」

「はぁ?ツンツンって何だよ、それ」

「あっ、変な意味じゃなくて!キリッ、シャキッとしてて……そう!部長ってカッコいいですよね!って意味、で……」

「……」

「……す、すみません……今のは全部、忘れてくださいぃ……」


部長が完全に黙ってしまったことに気付いて、私は再び謝る。

私の空回りに、物も言えないほど呆れられてしまったようだ。

あーもう、本当に私、何を言ってるんだろう。

何かを言えば言うほど、泥沼にはまっていく。

ダメダメ過ぎる自分に落ち込んでしまって、私ははぁと息をついて完全に俯いてしまう。

部長とはもう、目なんて合わせられない。


「高橋」

「は、はい……」

「お前、俺のことが知りたいのか?」

「……えっ!?」


部長の声がすぐ近くで聞こえて顔を向けると、そこには身体を屈めて私の顔を覗き込み、真っ直ぐ私を見る部長がいた。

たった今、部長とは目を合わせられないって思ったばかりなのに……目が離せない。

……ど、どうしよう……。

しばらく部長のことを見つめていたけど、速くなっていく鼓動と突き刺さるような部長の目線に耐えられなくなって、私はもう限界と、目線を落とす。

ふぅと小さく息が吐き出された部長の薄く開いた唇には妙な色気があって、私の心臓がさらに速度を増してドキドキと早鐘を打つ。

どこに目線を移しても、私の心臓は落ち着いてはくれないようだ。

 
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