口の悪い、彼は。
 

「部長、完璧すぎます……」

「は?意味わかんねぇ」

「……これ以上」

「あ?何だよ」


惚れさせてどうするんですか……。

悔しいのはもちろんなんだけど、嬉しい気持ちやら過去を探りたくなってしまう気持ちやら、いろんな感情が渦巻く。

ついつい拗ねる気持ちが出ちゃってたけど、せっかく部長と二人っきりでいれるんだから、今は余計なことを考えるのはやめよう。

……それに今、私の身体が切実に欲しているのは、目の前の“これ”らしいから。

こくりと唾を飲む。


「いえ、……お腹すきました。これ、本当に食べてもいいんですか?パブロフの犬の気持ちになってきました」

「……」

「ねぇ、ぶちょ」

「くくっ、ウケる」

「……。えぇっ!?」


嘘……今!

私が驚いて声を出したのと同時に部長の表情はいつもと同じに戻ってしまったけど……一瞬だったけど、部長が初めて笑顔を見せてくれたのだ。

細められた目、綺麗に弧を描いた唇、ふと緩んだ表情はどこかかわいくて。

それは恐ろしいくらいの破壊力だと思った。


「ぶ、部長……っ、もう一回わら」

「あ?ほら、パブロフの犬。よだれ垂らし出す前に食えよ。昨日の夜はヤるのに夢中で何も食ってねぇし、俺も限界」

「!!いちいち変なこと言うの、やめてくださいよ!」

「?変って何がだよ」


部長は眉間に皺を寄せて首を傾げる。

ストレートすぎる言葉は置いておいて、部長の手が私の頭をくしゃりと撫でてきて、私の心臓はきゅんとなった。

……言葉はいつもと同じでツンツンなのに、行動は全然ツンツンなんかじゃない。

 
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