生えてきた男
「あいつ、男が出来やがった。そいつと共謀して、この俺を殺しやがったのさ。あの日から俺は、この世に戻りたいという執念だけで、この冷たい土の中から這い出して来たのさ」

 実家にいる2人の姿が走馬灯のように目の前に広がった。

 幼稚園の運動会で、誰よりも大きな声で応援してくれた親父。

 小学校に入ってからは、よく空き地で野球を教えてくれたっけ。

 中学に上がり、思春期真っ只中で荒れていた俺の事も、見捨てずに見守ってくれた。

 高校の合格発表を見に行った時には、人目もはばからず3人で抱き合って喜んだ。

 そして成人式の日。

 お袋は、長年俺名義で積み立ててくれた預金通帳とはんこを差し出し、これはあなたの好きなように使いなさいと言って渡してくれた。

 今まで俺を愛し、育ててくれた2人は一体何だったんだろう。

 人を殺して、あんなに平然と暮らしていけるものなのだろうか。

 仏壇に手を合わせていたのは、祟りを恐れたものだったのか?



 俺は泣いていた。

 親父、生きているじゃないか。

 土の中から、ちゃんと生えて来たじゃないか。

 笑いが止らない。

 最高の夜だ。

 俺はそのままコースに戻ると走り出した。

 体が軽い。

 何周でも走れそうだ。

 今ならフルマラソンだって走れそうだ。

 そうだ、今年の市民マラソンに出てみよう。

 親父、その時は応援してくれよな。

 そして早く、足まで生えて来いよ。

 
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