生えてきた男
 そうだ。

 親父には足が無い。

 いや、足というより、胸から下が無いのだ。

 その部分はまだ土の中にあって、まるで上半身だけ地上に生えてきたかのようだった。

 待てよ。

 さっき親父は何と言った?

 やっと出て来た。

 確かそう言ったはずだ。

 出て来たって、もしかしてこの土の中から?

「親父、心臓発作で死んだんじゃなかったのか?」

 俺は、搾り出すような声でそう尋ねた。

「あの女、お前にそんな風に言ったのか?」

 母さんとは言わず、憎しみのこもった言い方にぞっとした。

「まさか・・・」

 不安が頭を過ぎった。

 幼稚園の頃、俺は川崎病というやっかいな病気で入院した。

 退院して家に戻ると、見知らぬ男がいた。

 それが今の親父だ。

 お袋は、俺が入院している間に本当の親父は心臓発作で死んだと言っていた。

 そもそも、俺が入院していた20日の間に親父の葬儀を済ませたばかりのお袋が、新しい親父と何気ない顔で生活出来たのは何故なんだ?

 親父の事を悲しむ風でもなく、お袋は笑顔で生活していた。

「親父、まさかお袋に・・・」

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