それが愛ならかまわない
食堂で同じテーブルについたり、外でランチしたのを長嶺さんに目撃されたりしている以上、『何となく見覚えのある同期』から『それなりに接点のある同期』に変わってはいる。だからって友人と呼べる程の感情がお互いに存在しているとは思えないし、一度取引として寝ただけでそれ以降何もないんだからセフレというわけでもない。
特に用事がある訳じゃないけれど、どうせなら届いたメールの事を話してみようかと考える。
いやでも椎名に話してどうにかなる問題じゃない。前に北見先輩に会った時は確かに椎名に助けられたけれど、今日の梅田部長のセクハラなんて完全にスルーだったし、真面目に取り合ってくれるとは限らない。
後ろを歩くこちらが考え込む余裕すらない程、椎名はスタスタと駅に向かって進んで行く。
あの人恋人とのデートでもこんなに早足なんだろうかなんて一瞬全く関係ない事を想像してしまった。
あれこれ逡巡しながらスーツの肩を眺めていると、ふと椎名が足を止めて横を向いた。
「……?」
思わず私も立ち止まる。
これじゃまるで本当に尾行でもしているみたいだ。
会社帰りのサラリーマンやOLで混み合う駅前の雑踏の中。誰かが人混みをぬって椎名に近づいたかと思うと極上の笑顔で笑いかける。
溝口さんだった。