それが愛ならかまわない
さすがに徹夜の疲れのせいか普段より重い脚を引きずって、十分程歩いて辿り着いた建物の前で一度足を止めて振り向き、背後を歩いていた椎名に指で示す。
「……ボロ……」
オブラートに包む事すらしない率直な感想が椎名の口から漏れる。
事実なので文句をつける所じゃない。築三十四年、木造二階建てのアパートの二階一番奥に位置する南東角部屋。そこが私の城だ。
朱く錆の浮き出た外階段をカンカンと音を立てながら昇って部屋の前へと辿り着く。古臭い形の鍵を取り出してドアを開け、椎名を招き入れる。
玄関を上がった所はフローリングではなく歩くとギシギシと音のなる昔ながらの板の間。右手に台所、左手に洗面所とそこから続く冬はやたら寒いタイル貼りの浴室とトイレ。正面にあるガラスの引き戸の向こうが畳張りの上にラグを敷いた寝室兼居間になっている。
寝室にはシンプルなパイプベッドが一つとその向かい側に小型のテレビ。ノートパソコンの置かれたテーブルが一つ。化粧品と本が少し入ったカラーボックス。それが室内にある全てだった。
1DKと呼べる広さ、そして浴室とトイレが分離している所と収納が広い所は気に入っている。
ローン返済の為に切り詰めた生活をしているけれど、それを他人に知られるのも嫌だったので持ち物含めた服装には気を遣っているし、営業という職業柄や過去の恋人からのプレゼントなんかもあってスーツ含めた衣服の量は多い。けれど押入れをクローゼット代わりにしてそれらを詰め込むと元々それ以外の物が少ないので部屋は殺風景になった。調度品やインテリア的な小物は一切ない必要最低限の居住空間。
「……若い女が一人暮らしする賃貸物件じゃなくないか、これ」