それが愛ならかまわない

「……」


 私の言葉を聞き流しながら椎名は何か言いたげな眼で、けれど無言のままコーヒーを飲んだ。どうも信用されてない気がするけど、これでも反省しているのに。


 食べ終わってから「シャワー使う?」と尋ねると「帰ってから風呂入るからいい」と断られた。確かに椎名は帰宅してそのまま休めばいいのだから、ここでどうこうするより自宅の方がいいだろう。
 着替えて簡単にメイクを済ませバイトに行く準備をする。普段の通勤スタイルよりずっとラフでカジュアルな格好の私を見て、椎名が珍しいことに「歳より若く見える」と笑った。一人暮らしの部屋に人を上げたのは初めてだけれど意外にも違和感はなくて、休日を二人で過ごしたらこんな感じなのかと思わず想像してしまう。


 いざ家を出ようと外開きのドアを開けようと鍵に手をかけた瞬間、上から重ねられた椎名の手にそれを遮られた。


「え、何……?」


「まあ確かにここまで来て何もしなかったってのも確かに勿体無い話だし、前にも言ったけど」


 逆らう隙すらなくくるりと身体を反転させられて、一瞬にして背中をドアに押し付けられていた。

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