それが愛ならかまわない

 初めて接触した日の事を思い出す。
 唇を合わせる事が出来るなら身体を重ねる事も出来る。あの時私はそう思っていた。逆に不快な相手とキスなんて絶対に出来ない。だとするなら、少しは期待してもいいんだろうか。
 ローンを払い終わって自由の身になったら。
 変な引け目を感じる事なく、素直にぶつかる事が出来るかもしれない。


 来た時の無言の道中とは逆に適当な会話を交わしながら店の側まで一緒に歩いて。
 店の前での別れ際にもう一回「しっかり休めよ」と言われて、今度は素直に頷いてありがとうと返す事が出来た。
 その日のバイト中、私の機嫌はやたらと良くてそれを常連さんに指摘されたりしたし、小野さんには「久々に元気いっぱいの莉子ちゃんを見た」なんて言われたのも当然だった。理由はまだ誰にも言えないけれど。















< 199 / 290 >

この作品をシェア

pagetop