それが愛ならかまわない
カチン、と二人がグラスを合わせる音がした。
まだほんのりと椎名の耳が赤くて、写真、いや本音を言えば動画で残したかったけれどそれをやると本気で怒られそうなのでさすがに自粛する。
「……」
椎名は無言のまま、財布から五千円札を取り出して矢吹さんに向かって指先で弾く。滑らかな御影石の上を二つ折りされたお札が滑っていった。
「たった一杯だけじゃ商売にならないんだけど」
そう文句を言いながらも矢吹さんはビールの入ったグラスを置いて、カウンターの端に設置されたレジに向かう。
「えー、もう帰んの?俺の事は気にせずデート続けてくれていいぞー」
「とりあえずここで待ち合わせただけなんで」
椎名の言葉を聞いてこちらにチラッと視線を走らせた長嶺さんに向かって、私は無言のまま苦笑いして肩をすくめて見せた。
当初の予定通りではあるけれど、長嶺さんが登場しなければもう一杯くらいは飲んでから移動していたかもしれない。まあこのままではいたたまれない椎名の気持ちも分かるし、折角の初デートなのでどうせなら知り合いがいない所の方がいいとというのも分かる。