風が、吹いた
あなたはもういない





誰もいない部屋に、響いていた自分の泣き声は、暫くして、止んだ。




放心しきった私は、髪の毛から滴る水滴が顔を伝っているのか、それとも涙が伝っているのか、わからないほど、頭の中をごちゃごちゃにしていた。



そして、その中で、たったひとつ、はっきりとしていること。




「私、本当に何も先輩のこと、知らなかったんだなぁ…」




思えば。



彼の携帯の番号さえも、私は訊いていなかった。



だって、先輩は、いつも私に会いに来てくれていたから。



いつも、私を見つけてくれていたから。






今、どこに居るのと尋ねることすら、できない。



自分は、自分のことしか、考えていなかったらしい。



これは、そんな私への罰なのかもしれない。



ぼんやりと、空になった本棚を、目でなぞった。




ガタン



という音が、玄関の方でして、反射的に、その方へと顔を向ける。



もしかしたら、という想いが、彼の姿を求めて、縋るように目を細めた。



< 302 / 599 >

この作品をシェア

pagetop