風が、吹いた
雨粒を払いながら、入ってきたその人は、
「千晶?」
驚いた顔をして、私の名前を呼んだ。
「…佐伯さん…」
濡れ鼠のような状態の私を見て、彼は全てを悟ったようだった。
「今、暖房をつけるから。タオルも持ってくるね。着替えた方がいいな、、、あったかなぁ。。」
初めて逢った時と同じように、静かな、そして穏やかな声で、言った。
涙はもう出ないと思うほど、泣いた筈なのに、
また一粒、零れた。
慣れた手つきで、コンロにケトルをセットして、佐伯さんはどこかへと消えた。
と思うと、すぐにバタバタと戻ってきて、私にバスタオルと服を手渡す。
「あそこの奥に、洗面所あるの知ってる?お風呂もあるから、シャワーだけでも浴びて服を着替えなさい」
キッチンの向こうにある扉を指差して言った。
「…佐伯さん…ここって…」
次から次へと指示を出す佐伯さんに、さっきから浮かんでいる疑問をぶつけようとしてみる。
「黙ってて、ごめんね。ここ、僕の家なんだ」
そんな私の言葉を遮って、彼が答えた。