風が、吹いた
風が吹いた

風が、吹いた。




心地良い春風が頬を優しく撫でて、髪を揺らす。




靴を濡らさないように波打ち際を歩きながら、




綺麗な貝殻はないかと、砂浜に目を落とす。




乳白色の、艶やかなそれを見つけて、




夢中で拾おうと屈むと、




「危ない」




ぐいっと繋いだ左手を引っ張られた。




「本当だ。ありがとう」




急に引き返してきた波が、もう少しの所で靴を濡らせたのにと悔しげに去っていく。






「左手に持つものは、守ってくれるんでしょ?」




彼がにやりと笑う。




「!?ど、どうして、、それを…」




顔を真っ赤にして、狼狽える私を、楽しそうに見つめながら。




「千晶。。心臓ってどこにあるか、知ってる?」




彼は更に追い討ちを掛けるように、訊ねた。




今度は、顔が蒼くなる思いだ。




居たたまれなくなって、繋いだ手を振り払おうと試みる。
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