風が、吹いた



「駄目」




勝ち誇ったような顔をしながら、彼は私の両手に、自分のそれを絡めた。




「ねぇ、千晶」




ザザ…ンと波の打ち寄せる音が聴こえる。



急に熱を帯びた彼の眼に、私は縫いとめられてしまったかのように釘付けになる。










「心臓は、真ん中にあるから、ね?」







一瞬だけ、ちらと自分の胸を見て、すぐにまた私を射止める。









「俺は、この両手に、千晶だけを持ちたいんだ。」








言葉と共に、引っ張られたと思うと、



唇が重なった。
















足元が波に襲われたことにも気づかず。



ただ、ひたすらに。




 ―fin

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