風が、吹いた


学校に着くと、靴箱でばったり浅尾に会ってしまった。



完全に忘れていた。




「……はよ」




彼は靴を履き替え終わったところ。私は靴を履き替えようとしているところ。それだけで形勢が不利な気がする。



不機嫌さを隠さない彼が、私に挨拶をしたのは、空耳だったのだろうか。



浅尾の視線が痛い。



「…………おはよーございます」




ばっちりと合った目を、不自然なほどに逸らして、上履きに履き替える。



それが終わって、どうか浅尾がもういませんようにと念じながら、恐る恐る顔を上げると、さっきと同じ体勢の彼はまだそこに居て、私を凝視していた。




「な、なにか?」




えへっと作り笑いをしてみる。が、上手にできてないのか相手が悪いのか、通じない。
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