風が、吹いた

慌てて、パンをコーヒーで流し込むと、制服に着替えて、鞄を引っつかんで家を出た。



空は今日もきれいに晴れ渡っている。



自転車で坂道を下ると、風を体に思い切り受けて、寒い。



ーそろそろマフラーする時期かな。



かじかんだ手でハンドルを握りながら、手袋も必要だなと思った。



暫くすると、見覚えのある森と白い家が見えてくる。



その正体がわかってしまった今、以前のように不思議に魅せられているかのような、惹かれる想いはなくなって、反対に心が温まるような、ほっとするような安心感が生まれていた。




ーでてくるかな。いや、やっぱり出てこない方がいいかな。




期待と困惑が入り混じったような、複雑な気持ちで、前を通り過ぎる。



ちらっと見えた家の外壁に、先輩の自転車がまだ立てかけてあったのが見えた。



間違いない。



私は、確信した。



椎名先輩は、遅刻常習犯だ。
< 82 / 599 >

この作品をシェア

pagetop