風が、吹いた


「椎名先輩…」



声のした方に目をやると、予想通りというべきか、じわり涙目の彼が、にこりと笑ってそこに居た。



椎名先輩の登場に驚いたのか、浅尾の私を掴む手の力が和らいだのを感じて、すぐに手を払う。




「昨日はよく寝れた?目、少し腫れてるけど、そんなにひどくならなくて良かったね。」




先輩は、浅尾のことなんておかまいなしに私の傍に来ると、自分の目を指差しながら、ふわりと笑った。




「さっきは、まだ自転車、あったのに。」




私はと言えば、椎名先輩の挨拶を無視して、今思っていることを口にしてしまう。



私の言わんとしている事を理解したのか、先輩が、あぁ、と呟いた。




「俺ね、自転車2台持ってるの。」




そう言うと、沢山付いたキーケースの中から鍵を2つ、取り出して見せた。

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