帰宅部エース









翌日。


花瀬君のことは、ほとんど意識から消え去った。

などと考えているあたり、だいぶ意識しているようだ。




「おはよ、常夏さん」


「おはよう」




昇降口で、クラスの女子に出会した。

名前は覚えていないため、挨拶だけ返す。

流れで、教室まで一緒に行く羽目になった。




「常夏さん、全然常夏って感じじゃないよね」




名字が常夏というだけで、常夏という雰囲気はまったく出そうとしていないのだから、当たり前である。




「はは」




面倒なため、適当に促すことにした。

手間のかかることは大嫌いだ。

極度の面倒臭がりの私は、無論委員会にも部活にも所属していない。

学校にだって来たくないところだ。




「花瀬も、春ではないよね」


「あぁ。そうだね」




雰囲気そのものは春と言えなくもないが、春はあんなに変わっていない。




「花瀬桜で、春生まれなんだろうって思ってたら、冬生まれらしいよ」


「へえ」


「常夏さんは?」


「冬生まれ」


「ええ!そこは夏でしょうよ」




名字や名前で誕生日を決めつけられるのは迷惑だ。

こちらが期待を裏切ったみたいになる。




「花瀬と言えばさ」




そんなに花瀬君のことが好きなのだろうか。

話が変わったかと思えば、花瀬君である。




「帰宅部のエースって、あだ名あるじゃん」




初耳である。

しかし頷く。




「あだ名だと思ってたら本当にあるらしいよ、帰宅部」




これまた、初耳。

この口振りからすると、有名な話ではなさそうだが。




「そうなんだ」


「でも部員は花瀬だけだから、研究会かな」




そんなことより、帰宅部とは何をするのだろう。
と考え始めたところで、昨日の会話を思い出した。




「放課後に何かする部活?」


「らしいね。ゲーセンとか行ったり帰宅部らしいことするんだってさ」




わざわざ設立しなくてもよかったのでは。

そもそも先生は何を決め手に許可したのだろう。




「いろいろ疑問だらけなんだけどさ、本人に訊くのは気が引ける」




奇想天外な発言ばかりするし、やはりまわりには一目置かれているようだ。
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