狂気の王と永遠の愛(接吻)を・センスイ編収録

アレスの願いとアオイの心Ⅲ

「お父様はもう怪我の事を知っているのっ!それに…アレスがこの傷を治してくれたとしても、手当をしてくださった方に失礼だわっ!!」


いつになく感情的に声を荒げるアオイに違和感を隠せないアレス。


「アオイ様…本当にどうされたのですか?」


怪訝に眉を顰(ひそ)めながら立ち上がった彼。


「…普通の人はこうやってすぐ傷を治してもらえないじゃない…学園で怪我をしたら保健室というところに行くのが当たり前なの。私だって皆と同じでもいいでしょう…?」


センスイとの約束を守るため、苦し紛れの言い訳に聞こえるかもしれないが…学園生活はアオイにとってとても新鮮で、同じ年頃の少年・少女たちと過ごす事で色々気づかされた事がある。

人の手で手当てを受けるという意味もそのひとつだ。キュリオを始めとする魔導師たちの力が悪いというわけではないが、瞬時に完治してしまう魔導の力とは反対で…時間と優しさをかけて傷を癒していく人のぬくもりがこれほど素敵な事だとは正直思わなかった。

通常では当たり前の風邪や怪我、時間に拘束された規則の中で生きる生活のルールは、限りある人の命の中でとても重要な事だと理解出来たのだ―――…


そして最初は窮屈に思えたこのリズムもアオイ自身、いつしか楽しむようになり…さらにはその中で見つけた"友"という大切な存在が学園生活を素晴らしいものへと変えていった。


「…お言葉ですが、アオイ様は特別な方です。民と同じ日常を体験されるのは、彼らを理解する上でも重要な心得だとは思いますが…」


「だからと言って心身の傷までを見過ごせるほど、貴方様の存在は軽んじられるものではないのです」


「…私は特別じゃない。お父様の娘だから大切にされているだけで…ただの人間よ!!」


「アオイ様っ!!」


アレスの目から逃れるように走り出したアオイ。
いつも感じていた引け目をとうとう爆発させてしまった。これまで血の繋がりがないにも関わらず、親子以上の愛を向けてくれたキュリオに…城の従者たち。


しかし、その愛に報いるためにも…と考えているアオイだが彼女は何の力も持っていない普通の少女なのだ。


(…早くに両親亡くしてしまった子供たちは普通施設で生活するんだって昔聞いた…)


(愛に応えられない私は…)


窓から差し込む、暮れゆく黄金の光を見つめながら…アオイはクジョウという青年の言葉を思い返していた。


"…平和な国でのうのうと生きる王と姫…か…"


"姫"という言葉に胸がチクリと痛む。


そして気になる事が他にもある。彼らの言葉は、まるで平和である悠久を忌み嫌うような口ぶりだったからだ。


(センスイ先生たちの国は平和じゃないという事…?)


「センスイ先生…会ってお話がしたい…」


互いの環境により大きくなってしまった溝が修復されることはなくとも…せめてその間をつなぐ架け橋が出来たら…と考えていたアオイだった―――



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