君の名を呼んで 2
***

「ナナミも家庭が複雑なんだよ」


その日遅くに帰宅した皇は、着替えながらそんな話を切り出した。

「ナナミ自身は元々アイドル志望だったらしいがな。両親はバリバリお固い公務員。二人とも名門校の教師なんだと」

ため息混じりで話す皇は、自分のことを思い出したのか、苦笑いした。

「あいつんちは俺とは逆。何するにも親の許可が必要で、何から何まで監視と干渉の嵐だ」

「よくBNPに入れさせてくれましたね」

そんなご両親じゃ、きっと芸能界なんて反対されただろうに。
私の疑問に、皇が頷く。

「そりゃもう苦労したぜ。何ヶ月かけて説得したか」


BNPではあらゆる交渉は基本、真野社長と城ノ内副社長の役目。
彼らは社員が仕事に専念できるようにと、上手く隠してくれるから、私達マネージャーはあまりそのあたりの苦労は知らないのよね。

「事務所入りは承諾したものの、何かと家で風当たりが強いらしくてな。ああやって相談にくるんだが……」

悩んでいる彼女が頼れるのは、きっと城ノ内副社長だけなんだろう。


「だけど依存し過ぎもマズイ。このままじゃ潰れる」


それは多分、城ノ内副社長への恋心が依存を加速させてるのね。
皇はそれを感じて、少し距離を置くべきだと言ってる。
それは、よくわかるんだけど。


「だからってあの台詞はどうなのよ」

思わず呟いた言葉を、彼はしっかり聞いていたらしい。
ニヤリ、と微笑む。

「ああ?そういえば、言われたことは守ったか?」


できるか!そんなもん!
真っ赤な顔で睨みつけた私を楽しそうに眺めて、けれど皇はまた溜息を吐いた。

「ああいう、ガキとオンナの中間は難しいな。真野とかお前の方が得意だろ」

「城ノ内副社長に女性関係で得意じゃない分野なんてあるんですか?」

冗談めかして言った言葉は、皇の揺れる視線で返された。

その珍しい、困った顔に。
少しでも心を軽くして欲しかった私は。

「皇、私のことなら大丈夫ですよ。ナナミちゃんの力になってあげて」

なんて言ってしまったんだ。


かすかな不安なんて、気づかないフリをして。
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