君の名を呼んで 2
「雪姫」

資料室にいた雪姫を呼び止めたら、あいつはいつも通りのキョトンとした顔で俺を見上げた。

「どうかしたんですか?あの、私急ぐんですけど。真野社長が大至急って」

「お前俺に隠してることないか」

真剣に問えば、雪姫はえ?と怪訝な顔をする。
心当たりの無い、といったその反応は、いつもの俺なら納得するだろう。
けれどすずの話を聞いた後では、少しの変化も見逃したくは無い。

「……思いつきませんけど」

雪姫が俺の横をすれちがった瞬間、その手首を掴んだ。


あ?ーーなんだ、これ。


その細さに気づいて、俺は顔をしかめた。


ーー痩せた。


元々雪姫は体重が変わっても、顔の輪郭には出にくい。
加えて俺はここ何日か忙しくて帰宅する時間もなく、彼女の変化に気づかなかった。

「いつから、食べてない?」

自分の顔が険しくなるのを自覚しながら、雪姫に問う。
雪姫は苦笑いして答えた。

「食べてますよ。ランチ一緒にしてるじゃない」

確かに自宅では一緒に食べる時間はなかったが、会社で昼食はとっていたはず。

「雪姫」

その顔だけなら、どこにも違和感が無い。
ーー無いことに、愕然とした。

いつから、こんな顔をするようになった?
まるで完璧な、女優の顔。


「食べるけど、吐いちゃうことがあって。ちょっと風邪引いたみたいです」


そんな軽いものじゃない。
きっと食事の度にーー。


こいつはしっかりしてる割に
メンタルが体調に出やすい。

そんなこと、俺はよく分かっていたはずなのに。


「雪姫、俺を騙すな」

わざとキツい言葉を掛ければ、雪姫の表情が揺らいだ。

「俺を信じられないか?」


そうじゃないんだよな。
誰よりも信頼してくれてるから、お前は自分を押し殺す。

けれど俺が欲しいのは、お前の我慢じゃないんだ。

結婚したのは、何の為だ?
お前を遠くに感じる為じゃない。


雪姫、本音を聞かせろ。
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