君の名を呼んで 2
***
ーー私は、息を呑んだ。


「俺を演技で騙すなんて、いい度胸だ」

皇は私を資料室の棚に押し付けた。
間近に見る彼の顔にもう嘘をつき通せないと思い知る。
私はやっぱり、演技が下手だ。一度崩されたら、もう建て直すことは出来ない。


「お前は、俺がナナミに手を出す訳が無いと分かってる。俺がお前を想っていることも分かってる。なら一体、何に怒ってるんだ」

「怒ってなんか、いません」


どうして?怒ってるのは皇の方なのに。
皇は私を見つめる。

「ああ、違うな。……何がそんなに不安なんだ」


私、は……。
自分でもわからなかった心に落ちた黒いモノに、皇は容易く名前をつけてくれた。

ーー“不安”

私は震える唇から、言葉を落としてゆく。


「……私はワガママを言っちゃダメなんです。いつだって皇の一番の理解者で居たい。仕事を大事にするあなたを好きになったのに、私だって仕事が好きなのに、あなたに仕事より私を優先して欲しいなんて。そんなこと、言いたくないのに」


いま、わかった。
皇に近寄るナナミちゃんに嫉妬していたんじゃない。
自分の心のままに行動する彼女の良くも悪くも一直線な部分に、見ないフリをしていた自分の我儘な欲求を、醜さを隠し切れなくなって。
それを皇に知られるのが怖かった。


「それとこれとは別だろ。一番に理解してたって、寂しいものは寂しいし、ムカつくもんはムカつく」

皇は私にそう言うけれど、私は首を横に振った。

「だけど、不安だったんです。ワガママな私を見せたら、あなたに幻滅されるんじゃないかって。面倒な女は、嫌いでしょう?」


“城ノ内副社長”の考えならよく知ってる。
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