君の名を呼んで 2
「え……?」

彼女はまじまじと私を見る。
私がそんなことを言うなんて、思ってなかったに違いない。


「泣き言言うくらいなら今のうちにやめた方がいい。この先もっともっと辛いこと、たくさんあるもの」


私は厳しい言葉を、けれど穏やかに彼女に伝えた。
私が子役のときにそばに居てくれたマネージャーを思い出して。
伝わってほしい、と思いながら。


「だけどね。あなたは城ノ内副社長がその才能を見いだした、BNPのアイドルなのよ。城ノ内副社長の信頼に、期待に応えて。私達マネージャーは必ずあなたを支えるから。デビュー前だろうが、新人だろうが、プロと認めて全力でサポートする。一人じゃないよ、ナナミちゃん」


つまらない言葉かもしれない。
なんの根拠もないかもしれない。
だけど、私がマネージャーになった意味。
あなたに出会った意味。

きっと、この言葉を伝えるため。


「一人じゃないよ」


私の言葉に、ナナミちゃんは信じられないといった様子で顔を歪ませた。
私はそんな彼女の手を引く。


「行こう」

「え?」


ナナミちゃんの手を掴んだまま、ずんずんと進む私の前に城ノ内副社長が居た。
壁に寄りかかって、煙草の箱をもてあそんでいる。
いつから居たんだか……。


「勝手なことをするけど、許してもらえますか」

私の様子に、彼はクスリと笑って。


「ああ。……お前なら、そうすると思った」

私から車の鍵を取り上げた。

「俺も行く。久しぶりにお前のぶち切れるトコ、見たいしな」


人聞きの悪い……。
ナナミちゃんがぎょっとして私を見たじゃないの。

だけど何故か、心強くて。
まっすぐに前を向く。

そうして私達は車に乗り込んだ。

私ができること。
私がしなきゃならないことをするために。
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