フキゲン・ハートビート


でも……本当は違うんじゃないかって、いまなら少し、思えてしまう。


だって、“ヤなやつ”はたぶん、自分がずぶ濡れになってまで、他人に傘なんか貸さない。

面倒な酔っぱらいの介抱なんか絶対にしない。

Gの退治なんか絶対しに来ない。


たしかに寛人くんは昔から、しゃべんないし、笑わないし、不機嫌そうで、近寄りがたい存在だった。

見た目は完全にヤなやつだった。



――でも、本当に?



頭脳明晰、成績優秀で、当時からどこか達観したように大人びていた寛人くんのことを、

すでに“ミュージシャン”として芸能活動をしていた寛人くんのことを、


はじめに遠ざけたのは、あたしたちのほうだったんじゃないのかな。


半田寛人は、見えづらいいちばん奥のほうに、わかりづらいいびつな形をした優しさを、きっと隠し持っている男だ。


あれから5年が経ったいまになってやっと、そんなふうに思うんだよ。

都合いいよね。




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