フキゲン・ハートビート
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  ☔︎


「ホンッマにありがとう……!」


関西人の、『とう』のほうにアクセントがくるアリガトウがとても好きだ。

なんとなく、ものすごく心をこめてくれているような気がするから。


「蒼依のことやから絶対忘れてると思てた~」

「忘れるわけないじゃん」


チョット忘れかけていたことは言わないでおこう。


黒背景にヘンな玉子焼きのイラストがついているCDを、両手でぎゅっと抱きしめながら、新奈が顔をくしゃっとさせて笑う。

このうれしそうな顔をあまいたまごやきの皆さんにぜひとも見ていただきたいよ。


「でも、ホンマにいいん? ファンにとっては死ぬほど貴重なものやろうし……」

「だからこそ、あげるんだよ。“ファン”の新奈に持っといてもらったほうがCDも絶対幸せだもん」


あたしが持ってたって押し入れの奥底に眠っちゃうだけだもんね。


「けど最近、蒼依かてよう聴いてるやん? ファンになったんちゃうん?」

「まあねー。たしかに改めて聴くとやっぱりいいなって思うし、最近は実際に会ったりして、よくしてもらってるから、そういうのもあるけど……あたしは新奈みたいな純粋なファンじゃないからなあ」


『純粋なファンじゃない』というのは、
『中学が同じだったから』という意味のつもりで言った。

でも新奈はそれを違う意味でとったみたいで、とたんにいやらしい笑みを浮かべたのだった。


「なぁなぁ、ぶっちゃけチャンヒロとどうなん?」


どうって、なにがだよ。

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