フキゲン・ハートビート


「べつに特にどうもしな……」

「ハイっ、すーぐ嘘つく~!」


大阪出身らしい、素早すぎるツッコミに圧倒されていると、そのかわいらしい顔がずいっと近づいてきて。


「知ってるねんで? お互いの家行き来してること」


行き来、て。

あたしが泥酔して彼の家でお世話になったのと、Gの退治をしに来てもらったのとで、それぞれ一度ずつだけじゃないか。


「かぁっこよかったなぁ~? 飲み会で蒼依のこと連れて帰ったチャンヒロはなぁ。うっかり惚れそうなったもんなぁ!」


わざとらしい恍惚の表情を浮かべる新奈が、大げさな感じで言いながら、チラチラとこっちを見る。


ていうかそんなに軽率に惚れるなよ。

惚れっぽい、肉食系女子の新奈が言うと、半分本気に聞こえるんだから困る。


それでもなおくちびるをとがらせてかぶりを振るあたしに、彼女はとうとうしびれを切らしたようだった。


「まあ、ええけどさ」


とたん真剣な顔をした新奈が、眉に皺を寄せて、


「ぶっちゃけヤったん?」


と、声をひそめた。


やるって、あんた。

カワイイ顔して言うもんじゃないよ。

しかもこんな公共の場で。


「やってないし、寛人くんとはそういうんじゃないし」

「甘いな。相手はバンドマンやで? お酒入っててんで? 結局お泊まりしたんやろ? なんもないワケがないやん?」

「そんなこと言われても、ホントになにもなかったんだもん」

「蒼依は記憶ないんやろ? そんなんむこうが言うてるだけかもしれへんやん!」


まあ、それはそうだけど。


でも、あいつはそんなつまらない嘘をつくような男じゃない。

酔った勢いでこんな女に手を出してしまうような、そんな愚かな男じゃない。

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