フキゲン・ハートビート
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  ☔︎


雲ひとつない青い空を見上げて、梅雨が明けたんだなあ、としみじみ思う。


ムシムシした嫌な空気がカラッと気持ちよくなったのはいいけど、暑すぎるのも勘弁だ。

もともと、あたしはインドア派なのだ。


だからきょうも本当は断ろうかと思った。

でも、季沙さんと俊明さんにどうしてもと言われたので、さすがに参加することにした。



「蒼依ちゃん、ちゃんと食べてる?」

「あ、ハイ! ありがとうございます!」


きょうはみんなでバーベキューに来ている。


道具が全部そろっている、バーベキュー専用の、ロッジみたいな施設。

都内にこんなところがあるなんて知らなかった。


ちなみに“みんな”というのはもちろん、あまいたまごやきのみなさん、プラスアルファに決まっている。

心細いので新奈にもついて来てもらった。


「さっきからずっとお肉焼いてばっかりじゃん。あたし代わるから、そこ座ってなよ」


言うなり、あたしの手からトングを取りあげたのはみちるさん。

黒のノースリーブからのぞいている腕があんまりにも細くてうらやましくなる。

思わず見とれていると、彼女はシルバーアクセがジャラジャラついた手首をひねって、少し遠い場所にいるアキ先輩をトングで指した。


「ていうか男が働くんだよ。彰人、かわいい後輩ちゃん働かせてなにビール飲んでんの」

「あ、ごめん! 蒼依ちゃんも、気付かなくてごめんな。アッチで休んでて」


アキ先輩のキラキラフェイスが申し訳なさそうにゆがんだ。

中学時代はモテモテでしょうがなかった、みんなの憧れのアキ先輩を尻に敷いてるみちるさんは、きっとものすごい女性なんだろう。


アキ先輩やみちるさんにやらせることになるくらいなら、あたしなんかは肉焼き係でいいのだけど、なんだかそうもいかない雰囲気だ。

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