フキゲン・ハートビート
「ヒロくんって、蒼依ちゃんになついてるよね」
「なついてる!?」
ちょっと、どこから突っこんだらいいのか、もうわからない。
「うんうん。こうちゃんも言ってたよ。ていうかみんな言ってる。アキくんも、みちるちゃんも、トシくんも!」
うれしそうに笑っていらっしゃるところ申し訳ないんですけど、言ってる意味が、本当にまったくわからないです。
「ヒロくんって、外部への警戒心が人一倍あると思うんだよね」
言いながら、季沙さんがあたしと同じように寛人くんのほうへ目をやる。
「それってたぶん、ヒロくんがすごくまじめで敏感なせいなんだと思う。もちろんそれ自体はヒロくんのすごくいいところなんだけど、その分ちょっとだけ生きづらそうっていうか……自分が“この人は大丈夫だ”って感じた相手じゃないと、うまく付き合っていけないんだろうな、って」
「……はい。わかります」
「ね。ヒロくんにとってきっとたまごやきのみんなは“大丈夫”で、みんなもヒロくんのことすっごくかわいがってるんだけど……殻に閉じこもりがちなところとか、よけいなお世話なんだろうけど、やっぱりちょっと心配で」
アキ先輩や俊明さんを見ていてもわかるけど、季沙さんの言葉を聞いて、寛人くんはみんなからとても大事にされているんだな、と思った。
いつも教室でひとりでいた学ラン姿を思い出して、胸がきゅっとなったあと、同じくらい、ほっとした。
ちゃんと、居場所があったんだ。
大切にできるものや、人が、あいつにもあったんだ。