手の届く距離

声が届かないらしい。

一向に帰る気配はなく、眠れるように身体を横たえてくれる手は力強く、不安はない。

ゆかぴょんはなんで浮気したの。

こんな優しい彼氏よりいい人がいたの?

あ、髪触られた。

頭を撫でられてると、気持ちがいいよね。

褒められてる気分になるし、心がほぐれる。

眠い。

このまま眠っちゃう。

ありがとう、川原。

ごめん、寝るね。

「祥子さん」

うん。

どうした?

ゆかぴょんの携帯から、川原のデータ消しちゃった。

もう連絡ないでしょ?

大学のこと?

一般教養で被ってるのがあったら、過去問渡せるよ。

あ、サークルの先輩の方がいろいろ対策してたかも。

ふわりと風が顔を撫でて、額に柔らかい感触と温かさが触れる。

気持ちいい。

でも、すぐに離れた熱は、風に持っていかれてしまう。

あれ、前にも同じようなことあった気がする。

なんだっけ。

「おやすみなさい」

・・・おやすみなさい。

あれ、川原?

駆け足?

行っちゃうの?

話、途中じゃない?

ねえ、さっきのは何?

突然どうしたの。

「祥ちゃん、大丈夫?」

あ、晴香さん。

すみません、ご迷惑をおかけしました。

大丈夫ですよ。

前みたいに気分が悪くもないですし。

「何かされたわけじゃないのね。よく寝てるねぇ。祥ちゃんは、ちゃんとかわいいのよ。今度魔法を掛けてあげるからね。おやすみ」

布団の上からぽんぽんと叩かれる感覚に、手を振り返したいが身体が動かない。

おやすみ、晴香さん。

ねえ、また話、聞いてください。

今、川原が・・・
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