手の届く距離
祥子さんにからかわれたのもあって、仕事終わりにすぐメールをして、デートの誘いをした。

それから、一週間近く返事がないままだったが、高校の自由登校時期からだいたいそんな感じだったので、あまり苦にすることもなく、バイトに明け暮れ、返事を要求することなく過ごしていた。

束縛しない俺に感謝しろよ、なんて思いながら、メールを開く。

『返事遅くてゴメンネ。この間の言ってたお店、行ってきちゃったんだ。超可愛かったけど、健太には合わないかも』

確かに、可愛らしいキャラクターとコラボした喫茶店に俺が行っても、浮いてしまうかもしれない。

正直なところ、さして興味もなかったので、ほっとしてしまう気持ちがどこかにある。

けれど、デートプランを蹴られたからと言って、簡単に引くわけにも行かない。

時間を確認したら夜の10時半を過ぎたところ。

メールも届いたばかりだし、電話しても大丈夫だろう、と通話ボタンを押す。

目的のドリンクバーに背を向け、少しでも静かなエレベーターホールに足を向けながら、ありきたりな呼び出し音を3回聞いたところで、突然切られた。

留守番電話に繋がることもなく、呼び出し音の回数的にも、意図的に切られたと考えて間違いない。

もう寝ていた?

出られないところに居た?

今は出たくなかった?

タイミングが悪かった?

どこにも繋がっていないことを知らせる無情な音を発する機械が、画面の明かりを消してぼんやりした自分の間抜け面を映す頃に、ようやく携帯を再度操作してメールを作成する。

音のないほうへと向かっていた足はそれ以上進める必要はなくなり、すぐ傍の壁に背中を預ける。

『由香里のいい時にデートしよう』

もう、プランもへったくれもない。

一緒に出かけることがデートなんだ。

会ってから一緒にプランを考えるってのもありだろう。

大体、デートをしようと思ったのは、由香里が寂しがっているかもしれないからで、俺は・・・。

そこまで自分に言い訳して、自分の言い訳の言い訳を探す羽目になる。

別にデートなんてしたくない、なんて思ったら彼氏失格だ。

気持ちが冷めてる、というか、付き合い始めの浮かれた気持ちは、正直見当たらない。

付き合って1年も経てば、そんなもんだろうと勝手に解釈して、連絡の少ない自分の後ろめたさに目をつぶる。

釈然としない気持ちを押し出したくて息を吐きながら天井を仰ぎ見ると、ゴンッと頭と壁がいい音を奏でる。

天誅?天罰?

思わぬ痛みに声を押し殺して打った後頭部を抱えながらしゃがみ込む。

その上から、さらに爆笑が降ってきた。
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