手の届く距離
コーヒーが運ばれて、また場が中断する。
体の大きさだけで威圧感を与えてしまうが、由香里はそんなことをものともせず、積極的に近寄ってきてくれた女子だった。
バスケ部のマネージャーをして耐性ができたのだと思うが、最終学年3年最初の試合後に告白された時には、それまでそんなそぶりも見たことがなかったので驚いた。
振り返れば、女の子らしい視点で、細かいことをに気づいて、癒し系の女マネだった。
怒ると怖いが。
彼女のおかげで受験と部活のキツイ日々も癒されたし、受験一色に塗られるはずの3年後半の高校生活に、華やかな色が添えられて充実した一年だった。
その由香里が、これほど困っているのだから力にならないはずがない。
由香里も覚悟を決めたのか、大きく深呼吸をして由香里が背筋を伸ばす。
つられて背筋を伸ばす。
「健太、ホントごめん。別れて欲しい、です」
そのまま唇をかみ締めて、由香里は顎を引いて、俺を見る。
上目遣いの彼女は可愛い。
用意していた『大丈夫、警察には俺も着いていくよ』とか『俺が力になるから、安心して』なんていう台詞は、全く使えず、すぐに返す言葉を導き出すことができなかった。
開きかけた口をそのままの形で留め、由香里を見つめる。
「その、健太は優しいというか、のんびりしてていいと思うんだけど、もうちょっとこう、愛されたいというか・・・」
合わせた両手を口元に添えて、ぽつりぽつりと由香里は続ける。
言われた言葉の衝撃から立ち直れず、必要以上に彼女の観察をしてみる。
高校では一応化粧禁止だったのが、今ではしっかり化粧をして美人度が跳ね上がっている。
口元に添えられた指の爪は綺麗にネイルをしてあり、花が描かれているようだ。大学デビューの一環だろう。
元々ロングだった髪を、高校のときはいつも一つにまとめてポニーテールにしていたのに、今日はハーフアップで、髪が下ろされているとぐっと大人っぽく見える。
来ている服も、動きやすさ重視ではなく、見慣れないパステルカラーの女性誌に出てきそうなもの。
「ちょっと、待って」
情けないが何とか搾り出した声で話を続ける由香里を止める。