手の届く距離
由香里は慌てて頷きコーヒーカップを両手で包んで見つめてくる。

つぶらな瞳がなんでこういう時にも同じように、くそ可愛いと思ってしまうんだろう。

机に肘をついて、手で目を覆う。

これで目を開いたら、『嘘だよ』なんて言ってくれないだろうか。

もしも嘘ならすっかり騙された、見事な演技力だ。

残念ながらエイプリルフールは1ヶ月も前。

大体、久しぶりのデートでいきなりダッシュして、その後突然振られるって、悲惨すぎないか。

目蓋を開けても、変わらず困り顔の由香里がこちらを見ている。

「嘘だろ?」

こぼした言葉に、由香里はじわりと涙を浮かべる。

勘弁してくれ。

なんで由香里が泣くんだ。

由香里の言葉を頭の中で繰り返して、今までの自分の行動を振り返る。

連絡が途切れがちだったことがいけなかったのか。

高校では嫌でも毎日会っていたのが、自由登校になって会う時間が減り、卒業したらさらにがっくり減ったのは確か。

「寂しかった?」

思いついた原因に由香里は大きく一つ頷き、動きに合わせて涙がこぼれる。

取り合えずポケットティッシュを差し出して涙を拭いてもらう。

俺が何か悪いことをしたような気分で、背もたれに由香里の投げた重い気持ちごと背中を預ける。

初めての彼女で舞い上がっていた。

高校の時と同じように付き合えると思っていたが、それは俺だけだったということ。

「それ以外は?」

寂しい思いをさせたのは確かだが、それ以外はどうだろうか。

2,3ヶ月くらいの間。その間全く連絡しなかったわけではない。

受験勉強で手一杯になって、卒業したら野郎どもと最後の思い出、と遊びに繰り出し、バイトを始め、大学に入ったら遊べると思ったら意外と多い課題に手を焼いている間に、由香里が伝えられずに抱いていた想い。

それを今聞いておかなければ、突然別れるに至った経緯に納得がいかない。

「これから、もっと連絡するように気をつけるよ」

女々しく別れないで欲しいと思うのは、勝手すぎるだろうか。

喧嘩をしたわけでもなく、一方的に別れを言い渡されても、すぐに了承するのを戸惑うくらい彼氏をやってきたつもりだった。

ちょっと先輩に気持ちがぐらつくことはあったけれど。

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