手の届く距離

祥子さんの家では、背負った祥子さんを見て、のんびりした口調のお母さんが迎え入れてくれてた。

「まあ、うちの祥子が、ごめんなさいね。そのまま部屋まで連れてってくれるかしら?」

俺一人では一人娘を酔いつぶした悪者扱いされるかもしれないと晴香さんの同行してもらったが、部活の差し入れをしてくれた時に何度か顔を合わせているのを覚えていてくれたらしく、快く家の中に通してもらった。

「使える男手が出払ってたから助かるわ。ありがとうね。いつまで経っても、祥子って男の子と同じ気分なのよね。刈谷君と別れてから余計に。最近ちょっとスカート履いて出掛けるからいいかしらと思ったんだけど、日によって全然違うのよ」

「祥子さん、絶賛女子力アップ中って言ってました。努力家ですもんね」

さすが祥子さんの母親と思う観察に、笑いながら答える。

「祥子の部屋はこっちよ、適当に寝かしておいてくれるかしら。寝違えたって祥子が悪いんだから」

一軒屋の2階にある部屋の扉を開けてもらい、そんな風に言われたら、簡単に入れないはずの女性の部屋に入るしかない。

自分の妹の部屋だって、ご飯ができたから呼びに覗くだけで怒られる神聖な場所のはずなのに。

「お水持ってくるわ。あと、晴香さんに挨拶しなきゃ。この間お泊りさせていただいたし、あとよろしくね」

「え、あ、お母さん・・・」

姿を消す祥子さんの母親を目で追い、祥子さんを背負ったまま部屋に二人きりで残される。

車に座らせたときも苦労したが、一人で大丈夫だろうか。

車の屋根に頭をぶつける心配はないが、一抹の不安を抱えながら、ゆっくりとベッドに下ろす。

「下ろしますよ」

「かわはらーありがとーごめんねー」

起きてるのかと思うほどはっきり祥子さんの口から言葉が飛び出す。

「起きたんすか?」

中腰になってベッドに座らせるように身体を背中から下ろし、倒れないように身体の前にぶら下がる腕を掴んだまま祥子さんと向き合うように体の向きをかえる。

顔を覗き込んでも、目が覚める様子はない。

眠っていても律儀らしい。

新入生歓迎会で、酔っ払ったサークルの先輩を介抱した経験がこんなところで生きるとは思わなかったが、腕を放さず、そろりと背中に腕を回したが、顔を覗き込む形のこの姿勢でも祥子さんの目蓋は開かなかった。

ゆっくり身体を倒して枕の当たりに頭を乗せる。

ベッドの下に落ちている足をベッドに乗せ、布団を載せたら完成だ。


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