夫婦ですが何か?



ーーーーNEXT MORNINGーーーー




車の中で手帳を眺める。


だけど時々彼に気が付かれない程度に窓の外にわずかに顔を背け、そして何食わぬ顔で手帳を眺める。


それを数回も繰り返せばさすがに見て見ぬふりに限界が来たらしい彼が、小さな反抗だったのかずっと見つめていた携帯画面から尚も視線を外さずに不満を漏らした。



「随分と今日は楽しげですねぇ、我が愛しき奥様は、」



不愉快な棒読み。


まぁ、たぶんバレているとはわかっていたけれど顔を背けてにやにやしていたわけではない。


だからその指摘はどうなんだろうと思いつつも否定しきれない事実なのも本当だ。



「・・・・まぁ、いつもほど憂鬱ではありません」


「知ってる~?控えめに言ってるけど、普段からあんまり変化ある自分の感情口にしない千麻ちゃんからすれば、その言葉って『浮かれてる』って宣言してるようなものだって」



言い切ってようやく不機嫌なグリーンアイが私を映して嫌味に笑う。


ああ、そんなに面白くないのですね。


そして根に持っていらっしゃる。


もう時効だと思うのに彼の中ではきっとずっと根に持って持ち出してくる内容なのだと再確認させられて思わずため息。


開いていた手帳を『もういい、』と言いたげに終幕の音としてバタリ響かせ閉じると鞄に指先を伸ばした。


瞬間。


絡め取られ引かれた左手。


ムッとして見つめれば真顔でまだ不愉快表すグリーンアイに射抜かれ少し気圧された。


いや、気圧されるような隙が生まれたのは自分の手に触れた彼の唇の感触のせい。


あえて左手の薬指に唇を当てて、その付け根で光る夫婦の証を強調してくる。


嫌味ったらしく遠回しな不満表示にさらに眉根を寄せてみると、逆に口の端を上げた彼がその声を響かせた。



「ねぇ、わかっているだろうけど。・・・・俺が夫だよ?」


「嫌ってほど理解してますが?」


「この前みたいな色目・・・・使ったらその場で犯すよ?」


「あなたの基準でのものさし具合が理解しにくいものですので、どの見方が『色目』に当たるのか理解しかねます」



言いながら彼の唇に触れていた手を押し当て押し返すと、ムッとした彼がフンッと鼻を鳴らしながら窓の外に視線を移した。


それに焦るでも慌てるでもなく、むしろ幸いだと自分の視線をフロントガラスの向こうの景色に移していった。

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